憲法を学ぶ 第2回 立憲主義の憲法とは(近代国家の憲法)

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憲法
1 憲法総論A
憲法の意味)
憲法の意味
憲法の意味は多義的であり、A実質的意味の憲法、B形式的意味の憲
法に分類される。
(1)実質的意味の憲法と形式的意味の憲法
実質的意味の憲法とは、憲法の存在形式(成文法か不文法か)を問わ
ず、その内容に着目して捉えた概念である。実質的意味の憲法は、固有
の意味の憲法と立憲的意味の憲法に分類される。これに対して、形式的
意味の憲法とは、憲法の存在形式に着目して捉えた概念であり、「憲法
という法形式をとっているものをいう。
(2)固有の意味の憲法と立憲的意味の憲法
固有の意味の憲法とは、政治権力の所在と行使に関する規範をいう
(「広義の憲法」ともいう)。“国家あるところに憲法あり”という場合
憲法は、固有の意味の憲法であり、いかなる時代の国家にも存在する。
これに対して、立憲的意味の憲法とは、権力を制限することによって
自由を保障しようという基本理念に基づく憲法をいう。立憲的意味の憲
法は、近代国家に至って、国王の専断的権力行使を制限し、国民の自由
を保障しようという立憲主義に基づくことから、近代的意味の憲法とも
いわれる。
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■実質的意味の憲法と形式的意味の憲法
1固有の意味の憲法(広義の憲法
(1)実
質的意味の憲法(存在形式を問わず、内容に着目) 立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法不文憲法(慣習法)
(2)形式的意味の憲法(「憲法」という法形式をとるもの) 成文憲法憲法典)
憲法規範の特質
法規範としての憲法には、A根本規範としての特質、B制限規範・授
権規範としての特質、C最高規範としての特質がある。
Aについては、自然権思想に基づき、自然権を実定化した人権規定は
憲法の中核をなす根本規範であり、根本規範の核心的価値が個人の尊厳の原理であると解されている。
Bについては、近代憲法は、国家権力を制限し、国民の自由を保障し
ようとしているので制限規範としての特質があり、現代国家に至って国
民主権になると、国民が憲法制定権力によって授権すると同時に権力の
行使を制限するものと解されている。
Cについては、憲法は国の最高法規であって、最も強い形式的効力を
有し、実質的にも憲法の内容が人間の権利・自由を国家権力から不可侵
のものとして保障する規範を中心に構成されるからと解されている。
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憲法
2 憲法総論B(憲法の基本原理)
1 三つの基本原理
憲法13条前段は「すべて国民は、個人として尊重される」と規定する
が、このように「個人の尊厳」を究極の価値とし、これを実現するため
に、憲法は、基本的人権の尊重自由主義)、国民主権(民主主義)、
平和主義の3つを基本原理としている。
基本的人権尊重主義(自由主義
「個人の尊厳」を実現するために、国民は自由であって、国家権力か
らは干渉されることはないとするものである。憲法は、各種の権利・自
由を基本的人権として(憲法第3章)、これを「侵すことのできない永
久の権利」であるとし(11条)、「立法その他の国政の上で、最大の尊
重を必要とする」(13条)としている。
また、この自由主義は、国家の統治組織について、「権力分立制」と
「法の支配」を要請する。権力分立制(三権分立制)とは、国家権力を
立法・行政・司法の三権に分け、これを各国家機関に担当させることに
よって、国家権力の濫用を防止し、国民の人権が侵害されないようにす
る統治原理である。「法の支配」とは、国家権力の行使が憲法に従って
行われなければならないとすることによって、国民の人権が侵害される
ことを防止しようとするものである。
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国民主権(民主主義)
(1)主権の意味
主権とは、次の3つの意味で用いられる。
■主権の意味
意味例
A 国家権力そのものポツダム宣言8項「日本国ノ主権ハ、本州
(統治権) …ニ局限セラルベシ」、憲法9条、41条の
「国権」
B国家権力の属性とし憲法前文3項「…自国の主権を維持し…」
ての最高独立性
C国政の最終的決定権憲法前文1項「ここに主権が国民に存する
ことを宣言し、この憲法を確定する」、憲
法1条の「主権の存する日本国民の総意に
基く」
(2)国民主権の二つの契機
国民主権にいう「主権」とは、国政の最終的決定権という意味であり、
その主権が国民にある場合を国民主権、君主にある場合を君主主権(注1)という。国民主権には、次の2つの契機(本質的要素)があるといわれ
ている。
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国民主権の二つの契機
権力的契機国政の最終的な決定権が国民にあるということ
正当性の契機国家権力の行使の正当性の根拠が究極的には国民に
存するということ
(注1)戦前の明治憲法においては、天皇主権(君主主権)がとられていた。しかし、個人
の尊厳を確保し、国民の自由が保障されるためには、国民の自律的意思による政治が
不可欠である。そのため、日本国憲法は、国民主権を基本原理とし(前文1項、1条)、
天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の
存する日本国民の総意に基く」(1条)として、天皇は象徴にすぎないものとしている。
なお、君主によって制定された憲法を「欽定憲法」、国民によって制定された憲法を「民
憲法」という(明治憲法は欽定憲法であるが、現行憲法は民定憲法である)。
(3)国民主権概念の歴史
国民主権概念をめぐり、フランスでは市民革命期にナシオン主権かプ
ープル主権かで争われた。
■ナシオン主権とプープル主権
ナシオン主権実存する国民とは別の観念的・抽象的な国民を想定
プープル主権実存する主権の行使者としての人民を想定
日本国憲法に規定する国民主権は基本的にはプープル主権としてとら
えることができる。
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憲法
3 憲法総論C(平和主義、前文)
1 平和主義

平和であること自体が人間の自由と生存にとっての大前提であるた
め、憲法は、徹底した