バブルはいつはじけてもおかしくない。

現在、アベノミクス の状況をどう見ますか。

 円安です。円安バブル国債市場に無理を強いることによって過激な円安が起こり、今の日本企業の収益はそういう円安に支えられている。日銀は2013年から異次元金融緩和をやっていますが、本来、目的としていることができていない。金融緩和を行えばマネタリーベースが増えて、それでマネーストックが増えて金利が下がる--と、教科書に書いてありますが、マネーストックは増えていない。お金がジャブジャブ供給されているかというと、そうはなっていない。銀行が持っている国債を日銀が買って、代金は銀行が日銀に持っている当座預金になる。これが異次元緩和で起こっていることのすべて。マネタリーベースと当座預金はものすごい勢いで増えているが、貸し出しが増えないため預金は2、3%の増とほとんど増えていない。金利は日銀が国債を買っている直接的な効果で、いわば力ずくで下げている。
 それがはっきりした形で表れたのが昨年秋からの追加金融緩和だ。アメリカが金融緩和をやめて金利が上昇し始めているのに、日本は逆方向の金融政策をとって追加緩和をした。それで日本の金利は更に下がり、ついに昨年12月には2、3年債がマイナスになってしまった。これは、日銀が非常に高い価格で国債を買っているからです。将来、日銀が保有している国債は損失をもたらす。アベノミクス を語るとき、他の政策は効かないけど金融緩和だけが効いているとかいいますが、それは逆だ。金融緩和はまったく効いていない
 --それが日銀の財務にかなりの負担をかけているということですか。
 将来、損失が発生する可能性のある資産を大量に持っているわけですから。日銀は国債金利が上昇したら民間金融機関の国債はどうなるかという試算は発表していますが、自分のことは何も言っていない。たぶん民間の金融機関と同じ程度の損失が発生する。今の円安は誰も負担していないのではなく、損失は将来、国民が負担することになるかつてバブルの後始末の不良債権処理では大きな国民負担が発生したが、それと同じようなことが今起きている。
 ◎日本の企業の株が上がっていることについては?
 日本企業は強くなっていない。新しい技術を開発したわけでもないし、生産の効率性を上げたわけでもない。単に、円安によって円表示の輸出売り上げが増えただけのことです。実は、先進国の製造業が衰退するのは、日本に限ったことではなく、中国が工業化したから必然の現象だといえます。中国が工業化した世界で生き残るのは米アップルのように「国内で生産しない」「工場を持っていない」製造業です。日本の製造業も縮小するか、あるいは変身を図るべきです。国外に行くのが正しい方向だ。生産設備を海外に移すのが遅れた企業がこの円安で利益を得ていますが、円安はそういう意味でも日本の産業構造の転換を遅らせている。一番残念なのは、円高をよしとする政治勢力が存在しないということ。労働者の立場を代弁する政治勢力がない円安というのは労働力、賃金を安くするという意味で労働者の敵ですから。
 ◎バブルはまたはじけるとすれば時期はいつですか。
 それは分からない。金融市場で非常に不自然な状況を起こして進んでいる円安バブルは長期的に安定均衡ではいられない。ずっとはもたないことは明らか。ただし、それがいつ壊れるかは、分からないものなのです。
巨大地震、火山噴火、首都直下地震もいつ起こるかわからないが、それより、わからないがはっきりわかるのがバブルの崩壊ではないか。