一概に税収が増えているよに見えるが、税金の還流によるとも見える

 

国税庁は1日、2015年分の所得税の確定申告で、申告納税額が増加に転じ、前年比9.6%増の2兆9701億円だったと発表した。同庁は緩やかな景気回復や地価上昇を背景に、納税者が増えたことが一因とみている。 

いかに消費者物価指数の変化を加味してはたして、緩やかな景気回復と言えるかは疑問である。比較して見てほしい。

1991年以降に絞って詳しく消費者物価指数の動向を確認する


さらに最近の動向が分かりやすいよう、1991年以降にに絞ったグラフも作成した。こちらは基準値を1991年の値にしている。上記グラフの値とは単純比較できないので要注意。

↑ 消費者物価指数推移(1991年-2016年)(1991年の値を1.00とした時、持家の帰属家賃を除く総合)(東京都区部)(2016年は5月までの平均値)
消費者物価指数推移(1991年-2016年)(1991年の値を1.00とした時、持家の帰属家賃を除く総合)(東京都区部)(2016年は5月までの平均値)


この20年間余では物価は上昇してもせいぜい5%(1.052、つまりプラス5.2%)、そして21世紀に入ると(金融危機ぼっ発後の2008年に、資源高騰に伴う物価上昇が特異な動きなものの)全般的には下げ基調にある。特に2009年以降は確実な下落を示していた。いわゆる「デフレ感」を裏付ける一つの結果といえる。

2014年4月に改定された消費税率に関する影響だが、年ベースの直上グラフを見ると、ややイレギュラーな影響を及ぼしているように見える(消費税率が3%から5%に改定された1997年にも盛り上がりが確認できる)。そこで2013年以降に限り、同様の条件で月次ベースの動向を記した次のグラフで、詳しく見ていくことにする。

↑ 消費者物価指数推移(2013年1月-2016年5月)(2010年の年平均値を100とした時、持家の帰属家賃を除く総合)
消費者物価指数推移(2013年1月-2016年5月)(2010年の年平均値を100とした時、持家の帰属家賃を除く総合)


2014年3月から4月にかけて、有意な上昇が発生している。これは消費者物価指数の解説ページ【消費者物価指数では、消費税はどのように扱われているのですか】で説明されている通り、「世帯が消費する財・サービスの価格の変動を測定することを目的としていることから、商品やサービスと一体となって徴収される消費税分を含めた消費者が実際に支払う価格を用いて作成されて」いるからに他ならない。つまり消費税率の引き上げに伴い、支払金額が上昇した分だけ、消費者物価指数も上昇した次第である。

2014年5月まで上昇は続き、それ以降は横ばい、2014年の年末から2015年の頭まではむしろいくぶん下げ基調を見せていたが、その後上昇。しかし2015年5月の103.8を天井とし、それ以降は水準を少し落とした上での横ばいにシフトしている。これは生鮮食品の価格が上昇気味なのに対し、エネルギー関係費、特に電気ガス代などが原油価格の下落などを受けて下落しているからに他ならない。

↑ 消費者物価指数推移(2013年1月-2016年5月)(2010年の年平均値を100とした時、光熱費関連)
消費者物価指数推移(2013年1月-2016年5月)(2010年の年平均値を100とした時、光熱費関連)


「他の光熱費」とは灯油などを指す。電気代・ガス代が家計の観点で軽減されている傾向は【電気代・ガス代の出費動向をグラフ化してみる】などでも指摘している通り。家計負担が減ることは喜ばしい話だが、デフレ脱却の要因となっている実態を見るに、悩ましいところでもある。一般の世帯においては食料品の支出は日々成されるため価格の上昇は繰り返し記憶されるが、光熱費は大よそ月に一度のチェックで、中には銀行の自動振り落としのために月一ですら確認しない人もいる。心理面のプレッシャーの点では、数字以上のインフレ感、物価上昇の想いを抱かせることになる次第ではある。



物価の安定は消費最小単位の家計から見れば、良いことづくめのように見える。可処分所得が同じならば、消費財の価格が下落することで、実質的な購買力は上昇しうる。

しかし外食産業や建設業の事例に代表される通り、デフレ化が続くと、小売業、さらにはそこに商品を卸す輸送・生産を行う製造業への負担は蓄積されてしまう。同じ数だけ商品を販売できても、今までより金額上の売上が減るのだから、結果として利益も減る。しかもコスト(原材料だけでなく人件費なども含む)はあまり変わらないので(人件費は正社員の場合、解雇以外では容易には下げられない)、利益は圧迫される。調整がしやすい非正規雇用が増え、正社員も厳しい状態が続く。

物価のゆるやかな上昇は、需要が活性化することを中心にした経済の発展も意味している。1970年以降の動きが好例である。その観点から物価を眺めると、前世紀末期以降、日本経済はほぼ停滞していることになる。長期に渡るデフレ経済が喜ぶべき類のものなのか、今一度考えねばなるまい。